主催団体概要
安全で安心な地域社会の構築を目指して
私たちの日常生活は安全で安心できる環境にあるでしょうか。
NPO法人 安全と安心 心のまなびばは、安全で安心な地域社会の構築を目指して、以下の4本柱を基調とした活動を展開しています。
・交通安全普及に関する活動
・健全な子どもの育成に関する活動
・健康寿命延伸に関する活動
・防災及び防犯に関する啓発活動
私たちの周りには、安全で安心な生活を脅かす様々なリスク要因が潜んでいます。
目に見える危険から身を守るのも易しいことではありませんが、目に見えない危険を予知して対処することは一層難しい世の中です。
事故、災害、犯罪、健康被害、などに対する備えは大丈夫でしょうか。
本NPO法人は世の中の多様なリスク要因に注目し、心理、医療、福祉、教育等の多角的見地から調査と研究を行い、その結果に基づいた地域貢献事業を実践します。
皆様方のお力を借りながら、できることから一歩ずつ着実に歩んでまいります。ご理解とご協力をお願いいたします。
特定非営利活動法人 安全と安心 心のまなびば
理事長 金光 義弘
事業の趣旨
「無意識運転から意識運転へ」
「他人からの指摘はなかなか素直には受け入れない」というのは人の性(さが)でもあります。
このことは自動車の安全運転教育にも当てはまるのではないでしょうか。
昨今、高齢者の免許返納問題がクローズアップされていますが、この件についても、高齢者本人が納得しない以上、円満な免許返納にたどり着くのは難しいという課題がありました。
また、これまでも安全運転教育では事故事例や正しい運転の仕方などの教育コンテンツが小冊子や映像、機器による検査などと研究開発され実践されてきましたが、いくらこうした安全運転講習を受講しても馬耳東風の受講態度ではその効果も薄らいでしまいます。
一方、教育業界やスポーツ業界では「アクティブラーニング(能動的学習)」や「コーチング」などの自発的学習技法や態度変容技法が注目を浴びるようになり、本人の「やる気」を引き出すアプローチが主流となっています。
さらに、これまで当NPO法人 安全と安心 心のまなびばでは、家族や学校、地域、会社組織などの小単位での人間関係を活用した教育効果(信頼関係のある身近な人同士による対話を通じた行動変容の促進効果)について研究と実践がなされてきました。
こうしたことから、安全運転教育においても視点を変え、他者から教えられるのではなく、小単位での人間関係も活用して本人自身の「気づき」を促すことによる「安全運転行動の定着」という教育手法の研究開発に取り組むこととしました。
そして、その本人の「気づき」を促すためのツールとして、近年普及が進んでいるドライブレコーダー(マルチカメラタイプ)の活用に着目することとなりました。
つまり、「ドライブレコーダーの録画映像を用いて、自己の運転行動を見直す機会を提供し、小単位での人間関係による対話を通じて、普段の安全運転意識を喚起させる手法の設計・実践」(以下、「当事業」)について、3か年計画で取り組むこととなりました。
安全運転カフェ事業概要
当事業は、ドライブレコーダーと小単位でのコミュニケーションの2つを活用し、運転者本人のドライブレコーダーの録画映像を用いて、自己の運転行動を見直す機会と小単位での人間関係による対話を通じて、普段の安全運転意識を喚起させる手法の設計・実践について、3か年計画で取り組む事業です。
事業名 | 一般社団法人 日本損害保険協会 2019 年度 自賠責運用益拠出事業 自動車事故防止対策 地域密着型交通安全教育の方策開発と普及活動支援 |
目的 | 無意識運転の意識化と自発的安全運転意識の喚起による安全運転行動の定着 |
概要 | ドライブレコーダー(マルチカメラタイプ)を活用した小単位での人間関係による対話を通じて、普段の安全運転意識を喚起させる |
目標 | 安全運転カフェの参加拡大と教育効果の定着 |
手段 | ドライブレコーダー(マルチタイプ)を活用し、運転者自身が自身の運転映像を見る機会を設けることにより、身近な人との対話を通じて、自身の運転の「くせ」や「危険行動」に気づき、自発的な安全運転意識を喚起させ、日常での安全運転行動につなげてもらう |
事業対象 | 法人から家族単位までのコミニティー |
事業主催者 | 特定非営利活動法人 安全と安心 心のまなびば |
期間 | 2019年度~2021年度までの3ヵ年度 |
【成果目標】
1年目
・安全運転教育プログラム(通称「安全運転カフェ」)の開発
・安全運転カフェの実施(5団体計15人以上)
2年目
・安全運転カフェの実施による効果データの収集(10団体計30人以上)
・安全運転カフェのパッケージ化(普及版の開発)
3年目
・各種団体組織の特徴に応じたアプローチ法の開発
・組織・団体への普及拡大
安全運転カフェ
安全運転カフェの流れ
- 趣旨説明・事前アンケート・ドライブレコーダーの取り付け
- 当事業の趣旨・内容をご説明させて頂き、協力者様の許可を頂き協力者様の自動車に当事業担当者がドライブレコーダーを取り付けます。
また、取り付け後は現在の運転に対する姿勢やドライブレコーダーについての意識調査を行います。
- ドライブレコーダーでの運転走行動画の記録①(概ね1週間程度)
- 実際に協力者様の自動車にドライブレコーダーを設置し、協力者様の普段の運転動作を録画します。
- ワークショップ①(意識啓発・安全運転ビューイング・効果測定)
- 安全運転5則・教示用の資料や映像を活用しながらグループに分かれて意識啓発のワークショップを行います。
ワークショップ後は、事前に協力者様の自動車に設置したドライブレコーダーの映像を全員で鑑賞し各自の運転の「くせ」を見つけあいます。
ワークショップ終了後は、協力者様各自の運転に対する姿勢や行動変容についてのアンケートを行います。
- ドライブレコーダーでの運転走行動画の記録➁(概ね1週間程度)
- 協力者様の自動車に引き続きドライブレコーダーを設置し、協力者様の普段の運転動作を録画します。
- ワークショップ➁(意見交換・安全運転ビューイング・効果測定)・ドライブレコーダーの回収
- 2回目のワークショップでは、前回のワークショップを踏まえて1週間を振り返って運転に対する姿勢や運転意識がどう変わったのかをグループ内で話し合います。
グループセッション後は、前回のワークショップ以降の協力者様の自動車のドライブレコーダーの映像を全員で鑑賞し、お互いの運転に対する「くせ」や意識またはその変化について話し合います。
ワークショップ終了後は、協力者様各自の運転に対する姿勢や行動変容についてのアンケートを行います。
また、会終了後に当事業担当者が、協力者様の自動車からドライブレコーダーを回収します。
- 事後アンケート(意見交換ワークショップより約1か月後)
- ドライブレコーダー回収後1か月後を目途に運転に対する姿勢や行動変容についてのアンケートを実施します。
また、安全運転カフェの感想や行動変容についてもヒアリングします。
ドライブレコーダーの活用
今回の取り組みでは日常での安全運転行動につなげてもらう事が目標であり、その為にはまず運転者自身が自身の運転映像を見る機会を設ける事が非常に重要となります。
またその運転映像を見たうえで自身の運転の「くせ」や「危険行動」に気づく事により、身近な人との対話を通じて、自発的な安全運転意識を喚起する事ができます。
使用するドライブレコーダー
幾種類もあるドライブレコーダーの中から、
・外部環境(道路環境)と内部環境(運転者自身の姿)を同時に記録できる
・できる限り車載取付が簡便
・映像再生ソフトが付いている(各カメラ映像を同時再生する必要があるため)
という条件で選定を進めました。
しかし、前後カメラ(前外と後外)は多数販売しているものの、外内カメラ(前外と室内)を装備している機種は(2019年4月時点)あまり販売されていませんでした。
その後、4つのカメラを搭載しているドライブレコーダーをオオトエイブルズ社が販売しているという情報が入り、同社に問合せ試用し、この機種を使用することに決定しました。
この機種の活用により、「無意識になりがちなペダル操作(足もと)を映すことができる」ようになり、当事業の目的である「無意識運転の意識化」に効果的であると判断しました。
ドライブレコーダー取り付けの様子
ワークショップ
普段の運転で運転者自身が気づかなかった自分の「くせ」に気づいたり、自分は安全運転をしていると思っている人が、他者の運転を見ることにより安全運転意識を見直すきっかけになったりするなど、安全運転カフェへの参加によって安全運転意識の喚起と行動変容へのきっかけづくりになっているという効果が確認されています。
こうした自らの「気づき」をさらに効果的に促せるよう、今後も安全運転カフェでの運営方法や示唆の仕方に改良を加えていきます。
さらに、良い運転や注意すべき運転などの「くせ」の映像例として、教示用の映像も作成しました。
この教示用動画を映像評価参考項目などを参考にしながら鑑賞する事で、会の中での気づきを得るための安全運転への知識と感度を高めていきます。
安全運転ビューイング
交通安全カフェでは毎回安全運転ビューイングを行います。
安全運転ビューイングでは、協力者様同士で、互いのドライブレコーダーの記録映像を鑑賞し、鑑賞後に自身は勿論のこと、他の協力者様の運転の「くせ」を見つけ共有し合います。
鑑賞中は協力者様同士のドライブレコーダー映像を道路交通法や教習所などで使用するチェック項目を元に制作した、映像評価参考項目や高齢者講習運転行動診断票を参考にしながら鑑賞します。
さらに、記録映像を見ている最中には、ファシリテーター役が運転者へ「今のシーンでは○○について意識していましたか?」などと質問し、運転意識や「くせ」に対する「気づき」を促し、深めていく事ができます。
映像評価参考項目
高齢者講習運転行動診断票
効果測定
安全運転カフェでは会の最初と最後に協力者様自身の安全運意識・行動変容を確認するアンケートを行います。このアンケートを通し、協力者様自身の運転意識・行動変容を記録し、効果測定を行います。
この結果をもとに安全運転カフェへの参加がその後の安全運転意識や行動にどのような教育効果を与えていたかを測定します。
教育効果測定のための質問用紙
5段階評価による活用効果の測定とともに、自由回答による自発的な「気づき」のデータが収集できるよう随時改良をしていきます。
年度別活動実績報告
2019年度報告
効果測定結果報告
ドライブレコーダーの取付時(前)、安全運転カフェの1回目(中1)、2回目(中2)、安全運転カフェ2回目開催の約1か月後(後)の4回にわたり、次に示す1〜5の運転意識行動の評価項目について5段階評価(5.よくしている、4.している、3.普通、2.あまりしていない、1.していない)で回答していただいた結果を示します。
運転意識行動評価の変化(16人の平均値と標準偏差)
※( )内の数値は標準偏差 (N=16 ※中1のみN=15)
測定時期 | 前 | 中1 | 中2 | 後 | 前後差 |
1.安全運転を意識している | 3.56(0.81) | 3.67(0.82) | 3.75(0.77) | 4.13(0.62) | 0.57 |
2.意識して安全確認動作をし ている | 3.44(0.73) | 3.80(0.68) | 3.94(0.85) | 4.13(0.62) | 0.69 |
3.安全確認のための視線移動 の頻度 | 3.31(0.60) | 3.73(0.59) | 3.94(0.68) | 4.00(0.52) | 0.69 |
4.ブレーキ準備など危険回避 準備行動の有無 | 3.31(0.95) | 3.67(0.90) | 3.88(0.89) | 4.13(0.81) | 0.82 |
5.運転中ナビや地デジ映像を 見る回数や頻度を減らす | 3.06(1.06) | 3.40(1.06) | 3.63(1.09) | 3.88(1.09) | 0.82 |
各評価項目ごとの変化(平均値と標準偏差)
項目1:安全運転を意識している
項目2:意識して安全確認動作をしている
項目3:安全確認のための視線移動の頻度
項目4:ブレーキ準備など危険回避準備行動の有無
項目5:運転中ナビや地デジ映像を見る回数や時間を減らす
ドライブレコーダーの取付時(前)と安全運転カフェの1回目(中1)の評価数値(平均値)を比較すると、1〜5のすべての評価項目において平均値が上昇しており、ドライブレコーダー取付による安全運転意識や行動への変化があったことがわかります。
また、ドライブレコーダーの取付時(前)と安全運転カフェ2回目開催の約1か月後(後)の前後比較をしてみると(前後差)、1〜5のいずれの評価項目においてもポイントの上昇がみられます。
なかでも「4. ブレーキ準備など危険回避準備行動」と「5.運転中ナビや地デジ映像を見る回数や頻度を減らす」においては、それぞれ3.31ポイントから4.13ポイントへ、3.06ポイントから3.88ポイントへとともに0.82ポイントも上昇しており、安全運転カフェの実施効果が出やすい項目と考えられます。
反対に「1.安全運転を意識している」は、もともと今回の協力者のほとんどが、日常的に安全運転を意識している人であったため、前後差が出にくかったものと推察されます。 一方、1〜5の各評価項目ごとの標準偏差をみると、「3.安全確認のための視線移動の頻度」では標準偏差の値が0.52〜0.68で比較的ばらつきが小さく、協力者による個体差は少なく、反対に「5.運転中ナビや地デジ映像を見る回数や頻度を減らす」では標準偏差の値が1.0超えており、回答のばらつきが大きく、協力者による個体差が大きかったことがわかります。
「くせ」の発見
今回の安全運転カフェを通じて運転者が気づいた自分の運転のくせをまとめると、主に以下のようなものが見られました。
【良いくせ】
・身を乗り出しての意識的な安全確認
・複数回の念を入れた意識的な安全確認
・ブレーキに備えた足の位置(ブレーキ準備動作ができている)
【注意すべきくせ】
・走り出してからの安全ベルト装着
・余裕のない(前のめりやのけぞりすぎなど)運転姿勢
・首を振らず、視線だけでの安全確認
・ブレーキング間際での足のペダル移動(ブレーキ準備動作がない)
・スマホなどの脇見
・片手運転
・不完全な一時停止
・感覚だけ(安全確認せずの)車線変更
・同乗者と会話中の無意識運転
・意識運転しているつもりになった不完全運転
・夜になると集中力が落ちている(無意識運転になっている)
自由回答に見られる変化
効果測定のアンケートに設定している自由回答に書かれた内容を見てみると、「安全確認動作をより意識しだした」や「一時停止を意識して止まるようになった」、「自分のくせに気づいた」、「無意識運転になっている自分の姿が確認できた」など、第三者目線での気づきや、他者運転を見ることによる学習などの効果が多く寄せられています。
総合してみると、自分の運転のくせなどに注意を向け、運転中は意識的な運転を心がけようとする内容の回答が多く寄せられており、安全運転カフェの実施により、「無意識運転の意識化と自発的安全運転意識の喚起による安全運転行動の定着」という当事業の目的に沿った効果がでているものと考えられます。
活用拡大方法の検討
安全運転カフェ 協力者 募集チラシ
安全運転カフェの告知と 協力者 募集のため、チラシを 4 00 部作成し、知人や経営者団体に配布するとともに、飲食店などに貼付けをお願いしました。
安全運転カフェ 協力者 募集活動
2020 年 1 月 16 日 守成クラブ山陽会場(経営者の交流会 約 130 社出席)にて安全運転カフェ協力者募集活動を行いました。
2019年度研究実績報告
2020年度報告
2020年度事業目標
①安全運転教育プログラムの改善・改良
②安全運転カフェの実施による効果データの収集(10団体計30人以上)
③様々な団体組織(家族や企業、地域組織など)で導入してもらえるよう手法の改良とパッケージ化を進める
④協力組織・団体の拡大
2019年度からの改良点
①足下カメラの活用重点化(足下カメラ装着の改良と足下映像の意識化)
特に無意識な操作になりがちな駆動・制御系(すなわち下肢)での動作を記録し、運転者自身が無意識運転に気づくことを支援するために「足下カメラ」の設置にこだわりました。
そのため、「足下カメラ」が設置しやすくなるようカメラ台座にクリップを装着するなどの改善を行いました。
また、「足下カメラ」の録画映像を観る際には、特に、前進操作・制御及び後退操作・制御に分けて注目するように促しました。
足下カメラの録画映像から観察される無意識のくせを分類すると以下のようなものが挙げられます。
ア.履物の種類
イ.下肢のベースポジション
ウ.(狭小や飛び出し可能性など高リスク走行環境での)ブレーキ準備動作の有無
エ.(発進時・後退時等での)クリープ活用の有無
オ.サイドブレーキ使用の有無
カ.様々な走行環境(市街地、郊外、高速道、渋滞、車庫入れ、パーキング駐車(前進&後退)、坂道発進など)での下肢動作
○クリップ装着改善した足下カメラ
②自己評価シートの改良(6項目にクリープ活用を追加)
これまでの安全運転カフェで得られた結果を評価していくなかで、アクセルやブレーキなど下肢動作の意識化に関連するものとして「クリープの活用」にも注目しました。
そこで2020年度の途中からは、自己評価シートの評価項目としてそれまでの5項目に加えて、「クリープを活用した滑らかな運転をしている」を追加して6項目としました。
また、それ以外にも、事故歴やアクセル・ブレーキペダルの踏み間違え経験などを追加し、自己評価シートとしては2枚つづりになりました
○改善した自己評価シートVer.2020 1枚目
○改善した自己評価シートVer.2020 2枚目
③デモ映像の改良(2019年度での実際の映像データから編集)
2019年度では、我々が作成した15分間程度の良いくせ・悪いくせのデモ映像を活用して、自身の録画映像を見てくせに気づくための練習としていました。
しかし、2019年度での安全運転カフェ開催実績の進展にともなって、作り物ではない本物のくせ映像が多数集まってきました。
そこで、協力者の了解のもと、これらの映像を再編集してデモ映像としました。
○デモ映像Ver.2019
○デモ映像Ver.2020
④くせの「チェックポイント一覧」と「くせ一覧表」を新たに提示
デモ映像の改善と同様に、2019年度での安全運転カフェ開催実績の進展にともなって、作り物ではない本物のくせ映像が多数集まってきましたことから、このくせの内容を分析、分類し、よく見られるくせの種類と起こりやすい状況をまとめ、録画映像を見て自身のくせを発見しやすくするため「チェックポイント一覧」と「くせ一覧表」を作成し、デモ映像による見方練習のときから提示しるようにしました。
○チェックポイント一覧
○くせ一覧表
⑤「くせ」の買い取り制度
2019年度では協力者への謝礼として一律に2,000円分のQUOカードをお渡ししていました。
しかし、自身のくせを見つけようというモチベーションに寄与することも考えあわせ、見つけた「くせ」(良いくせ、悪いくせ両方含む)を1種類(同種のものは1種類とカウント)につき500円分(QUOカード)、10種類(5,000円分)を上限としてお支払いするという「くせ」の買い取り制度に変更しました。
ただし、この買い取り制度は謝礼の代わりであるため、今後、各事業所や地域団体、家族などがこの安全運転教育プログラムを導入していった際には、この買い取り制度自体の実施について目的も含め検討する必要があると思われます。
○「くせ」の買い取り制度
⑥録画映像の2回再生
安全運転カフェでの運転者自身の録画映像について、2019年度では1つのシーンにつき、運転者本人とファシリテーター(進行役:本プロジェクトの場合は天野)、ギャラリー(運転者同意のもと)が一緒に見ながら気づいた点を述べ合う形式をとっていましたが、2020年度では、1つのシーンについて2回再生するように変更し、1回目の再生時は運転者本人だけが「気づき」を表明し、2回目の再生時にファシリテーターやギャラリーも意見を述べるように変更しました。
これにより、運転者本人の「気づき」と他者支援があった「気づき」とを区別し、できる限り、運転者本人の「気づき」が増えるよう注力することができるようになりました。
【2019年度】
・再生回数1回
・全員で一緒に意見を出し合う
【2020年度】
・再生回数2回
・1回目は運転者本人だけ「気づき」を表明
・2回目は全員で一緒に意見を出し合う
効果測定結果報告(2020年度)
2020年度はコロナ禍により、緊急事態宣言の発出や他者との接触を極力減らすなどの対策から、本プログラムへの協力を得づらい状況となりました。
そうしたなかでも、2020年6月から2021年2月にかけて、7団体計9人から参加協力を得ることができました。
各実施結果および集計結果を以下に示します。
転意識行動評価の変化(25人の平均値と標準偏差)
※( )内の数値は標準偏差 (N=25 ※6.のみN=6)
測定時期 | 前 | 中1 | 中2 | 後 | 前後差 |
1.安全運転を意識している | 3.44(0.71) | 3.72(0.74) | 3.92(0.76) | 4.24(0.60) | 0.80 |
2.意識して安全確認動作をし ている | 3.28(0.68) | 3.72(0.61) | 4.04(0.79) | 4.28(0.61) | 1.00 |
3.安全確認のための視線移動 の頻度 | 3.12(0.67) | 3.68(0.56) | 4.12(0.67) | 4.20(0.58) | 1.08 |
4.ブレーキ準備など危険回避 準備行動の有無 | 3.16(0.85) | 3.56(0.77) | 4.00(0.82) | 4.24(0.78) | 1.08 |
5.運転中ナビや地デジ映像を 見る回数や頻度を減らす | 3.08(0.95) | 3.44(0.96) | 3.80(0.96) | 4.08(0.95) | 1.00 |
6.クリープを活用した滑らか な運転をしている | 2.67(0.52) | 3.17(0.41) | 4.00(0.89) | 4.33(0.52) | 1.66 |
※1団体目の効果測定は安カフェの前中後の3回だけだったため、便宜上、中を同じ数値で「中1」と「中2」として集計しています。
・各評価項目ごとの変化(平均値と標準偏差)
くせの発見
安全運転カフェを通じて運転者が気づいた自分の運転のくせをまとめると、主に以下のようなものが見られました。○印を付けたものは2020年度で新たに追加したものです。
【良いくせ】
・身を乗り出しての意識的な安全確認
・複数回の念を入れた意識的な安全確認
・ブレーキに備えた足の位置(ブレーキ準備動作ができている)
○歩行者等の早期発見に備えた前方情報取得
○適切な車間距離
○フットブレーキの活用
○バック駐車により発進時のリスクを減らす
○運転中は焦らず「待つ」ことを心がけている
○クリープを活用して滑らかな運転を心がけている
【注意すべきくせ】
・走り出してからの安全ベルト装着
・余裕のない(前のめりやのけぞりすぎなど)運転姿勢(主に上半身)
・首を振らず、視線だけでの安全確認
・ブレーキング間際での足のペダル移動(ブレーキ準備動作がない)
・スマホなどの脇見(前方不注意)
・片手運転
・不完全な一時停止
・感覚だけ(安全確認せずの)車線変更
・同乗者と会話中の無意識運転
・意識運転しているつもりになった不完全運転
・夜になると集中力が落ちている(無意識運転になっている)
○ハンドルを持つ手の位置
○前走車との車間距離
○走行中の走行位置の偏りや右左折時でのショートカット気味な走行ルート
○不安定な座席位置や座り方(主に下半身)
○走り出してからのシートベルト着用
○クリープを活用せず、アクセルを踏み込んでの発進
○アクセルやブレーキペダルの不安定な踏み方
○交差点等の赤信号停止時、横方向道路の信号機や歩行者信号で信号が変わることを 予測して、ブレーキを緩めはじめてしまう。
手法の改良とパッケージ化
安全運転カフェドライブレコーダー取り付けマニュアル
安全運転カフェ実施マニュアル
協力組織・団体の拡大
ア.安全運転カフェ協力者募集チラシの再作成と配布
イ.経営者団体等での安全運転カフェ協力者募集活動
ウ.安全運転カフェホームページの制作と公開
月間平均PV数78.6PV(2020年8月から2021年3月まで)
課題(2020年度)
①サンプル数の上積み
②教育効果持続期間の把握
③プライバシーへの懸念
④導入の必要性が弱い(ニーズが低い)
⑤導入拡大方策の検討
2020年度研究実績報告
【2021年度報告】
2021年度事業目標
①各種団体組織の特徴に応じたアプローチ法の開発
②組織・団体への普及拡大
3年目においてもコロナ禍の影響は尾を引いており、本来、各種団体組織の特徴に応じたアプローチ法の開発と組織・団体への普及拡大を図る予定だったものが、2019年度の試行において十分と言えるデータ量に達していなかったことから、拡大方策の検討と並行して3年目も継続してデータ収集に注力せざるを得ない状況となりました。
効果測定結果報告(2021年度)
ドライブレコーダーの取り付け時(前)、安全運転カフェの1回目(中1)、2回目(中2)、安全運転カフェ2回目開催の約1か月後(後)の4回にわたり、次に示す1〜5の運転意識行動の評価項目について5段階評価(5.よくしている、4.している、3.普通、2.あまりしていない、1.していない)で回答していただいた結果を示します。
なお、協力者NO.20からは評価項目に「6.クリープを活用した滑らかな運転をしている」を追加しています。また、マニュアル車を使用している協力者2名(NO.28、NO.31)はこの項目を外しています。
自己評価データ解析は、2019年度で得た16人分、2020年度で得た9人分に2021年度で得た20人分を加えた45人分で行っています。
さて、ドライブレコーダーの取り付け時(前)と安全運転カフェの1回目(中1)の評価数値(平均値)を比較すると、1〜6のすべての評価項目において平均値が上昇しており、ドライブレコーダー取り付けによる安全運転意識や行動への変化があったことがわかります。
また、ドライブレコーダーの取り付け時(前)と安全運転カフェ2回目開催の約1か月後(後)の前後比較をしてみると(前後差)、1〜6のいずれの評価項目においてもポイントの上昇がみられます。
なかでも「3.安全確認のための視線移動」は3.04ポイントから4.20ポイントへと1.16ポイントも上昇していました。
次いで「2.意識して安全確認動作をしている」も3.09ポイントから4.22ポイントへと1.13ポイント上昇しており、安全確認動作において意識化と行動変化がみられました。
反対に「1.安全運転を意識している」は、もともと協力者の多くが、日常的に安全運転を意識している人であったため、前後差が出にくかったものと推察されます。
一方、1〜6の評価項目ごとの標準偏差をみると、「1.安全運転を意識している」や「3.安全確認のための視線移動の頻度」では標準偏差の値がそれぞれ0.60〜0.65、0.59〜0.69で比較的ばらつきが小さく、協力者による個人差は小さく、反対に「5.運転中ナビや地デジ映像を見る回数や頻度を減らす」では標準偏差の値が1.0に近く、回答のばらつきが大きく、協力者による個人差が大きかったことがわかります。
なお、今回一例のみ(NO.43)ですが、ドライブレコーダーの取り付け時(前)と安全運転カフェ2回目開催の約1か月後(後)の前後比較でマイナス(下がった)が観察されました。
【結果の概要】
①評価項目1〜6全てにおいて安カフェ前後で数値の上昇が見られた。
→安全運転意識や行動に変化があった。
②特に安全確認について意識した行動変化が見られた。
③安全運転意識や安全確認のための視線移動では個人差は小さく、反対に運転中にナ ビや地デジを見る回数を減らす意識では個人差が大きかった。
運転意識行動評価の変化(45人の平均値と標準偏差)
※( )内の数値は標準偏差 (N=45 ※6.のみN=24)
測定時期 | 前 | 中1 | 中2 | 後 | 前後差 |
1.安全運転を意識している | 3.33(0.60) | 3.62(0.65) | 3.91(0.63) | 4.18(0.65) | 0.85 |
2.意識して安全確認動作をし ている | 3.09(0.60) | 3.58(0.66) | 4.02(0.69) | 4.22(0.70) | 1.13 |
3.安全確認のための視線移動 の頻度 | 3.04(0.60) | 3.53(0.59) | 4.02(0.62) | 4.20(0.69) | 1.16 |
4.ブレーキ準備など危険回避 準備行動の有無 | 3.18(0.75) | 3.44(0.69) | 3.91(0.70) | 4.18(0.81) | 1.00 |
5.運転中ナビや地デジ映像を 見る回数や頻度を減らす | 2.78(0.85) | 3.13(0.87) | 3.51(0.89) | 3.76(0.98) | 0.98 |
6.クリープを活用した滑らか な運転をしている | 2.79(0.72) | 3.21(0.66) | 3.54(0.83) | 3.71(0.86) | 0.92 |
※1団体目の効果測定は安カフェの前中後の3回だけだったため、便宜上、中を同じ数値で「中1」と「中2」として集計しています。
※評価項目6については、オートマ車のみのデータ(マニュアル車のデータは除外)としています。
各評価項目ごとの変化(平均値と標準偏差)
くせの発見(2021)
今回の安全運転カフェを通じて運転者が気づいた自分の運転のくせをまとめると、主に以下のようなものが見られました。
○印は2020年度で、また●印は2021年度で新たに追加したものです。
【良いくせ】
・身を乗り出しての意識的な安全確認
・複数回の念を入れた意識的な安全確認
・ブレーキに備えた足の位置(ブレーキ準備動作ができている)
○適切な車間距離
○フットブレーキの活用
○歩行者等の早期発見に備えた前方情報取得
○バック駐車により発進時のリスクを減らす
○運転中は焦らず「待つ」ことを心がけている
○クリープを活用して滑らかな運転を心がけている
●適度に前後左右に視線を巡らせて情報収集する
【注意すべきくせ】
・走り出してからのシートベルト装着
・スマホなどの脇見(前方不注意)
・首を振らず、視線だけでの安全確認
・感覚だけ(安全確認せずの)車線変更
・片手運転
・不完全な一時停止
・同乗者と会話中の無意識運転
・ブレーキング間際での足のペダル移動(ブレーキ準備動作がない)
・意識運転しているつもりになった不完全運転
・余裕のない(前のめりやのけぞりすぎなど)運転姿勢(主に上半身)
・夜になると集中力が落ちている(無意識運転になっている)
○ハンドルを持つ手の位置
●停車時にハンドルから手を離している
○前走車との車間距離
○不安定な座席位置や座り方(主に下半身)
○走行中の走行位置の偏りや右左折時でのショートカット気味な走行ルート
○クリープを活用せず、アクセルを踏み込んでの発進
○アクセルやブレーキペダルの不安定な踏み方(運転中の左右足の位置、足組み)
○交差点等の赤信号停止時、横方向道路の信号機や歩行者信号で信号が変わることを
予測して、ブレーキを緩めはじめてしまう(出発し始める)
●黄色信号での通過
●ウィンカーのタイミングが遅い
●過剰に前後左右に視線を巡らせる(前方不注意)
●前走車がブレーキをかけたのを認識し、自分もブレーキをかけはじめるタイミングで前方から視線を外す
●ダッシュボードや助手席に荷物を置く(不安定)
●抜け道として裏道を選択する
自由回答(2021)
効果測定のアンケートに設定している自由回答に書かれた内容を見てみると、「安全確認動作をより意識しだした」や「一時停止を意識して止まるようになった」、「自分のくせに気づいた」、「無意識運転になっている自分の姿が確認できた」など、第三者目線での気づきや、他者運転を見ることによる学習などの効果が多く寄せられています。
また、「ドラレコを外した後もドラレコを付けているときと同じように安全運転を意識します。」といったドラレコ装着の効果をうかがわせるものもありました。
総合してみると、自分の運転のくせなどに注意を向け、運転中は意識的な運転を心がけようとする内容の回答が多く寄せられており、安全運転カフェの実施により、「無意識運転の意識化と自発的安全運転意識の喚起による安全運転行動の定着」という当事業の目的に沿った効果がでているものと考えられます。
協力組織・団体の拡大
2019・2020年度に引き続き、当安全運転教育プログラムの告知と協力者募集のため、チラシの改良を行い、知人や経営者団体に配布するとともに、飲食店などに貼付けをお願いしました。
しかしながら、新型コロナ感染予防として緊急事態宣言が発出されるなど、他者との接触が極力控えられるようになり、当事業への参加協力を依頼するのも憚れる事態となりました。そうした中でも、当事業の必要性に共感を得、17団体20人の協力者があったことは感謝すべきことだと考えます。
一方、こうした当安全教育プログラムの広報と並行して、安全運転カフェホームページの作成、運営を行ってきました。サイトからの問合せは現在までのところありません。
守成クラブせとうち会場・山陽会場にて(2022年3月16日)
安全運転カフェホームページ 月間PV数
安全運転カフェ動画(Youtube)
Youtubeにおいて安全運転カフェの紹介&協力者募集動画を公開しました。2022年1月から2022年3月までの視聴数は23回でした。
安全運転カフェ自主開催の推進
2021年度においては、当安全運転教育プログラムを全国的に拡大する予定でした。
そしてその「拡大」という中には、「企業や地域組織、一般家庭で安全運転カフェが自主的に開催される」ということも目標(2021年度目標:企業5件、地域・一般家庭5件)として含まれていました。
結果として全国展開は叶いませんでしたが、自主開催をしてくださるところは合計8件となりました。
自主開催については、過去に安全運転カフェに協力した企業や一般家庭を中心に声掛けいたしました。
その結果、自主開催を受け入れた企業・家庭は、企業6件、一般家庭2件の合計8件となりました。
ちなみに、自主開催に至らなかった理由として多かったのが「試行で十分だった」「それ(安全運転カフェ)を開催する時間がない」「それ(安全運転カフェ)をする負担を他者(部下含む)に負わせることに気が引ける」といった内容でした。
自主開催を受け入れたところに対しては、譲渡契約書を交わすとともに、安全運転カフェで使用する4カメ付のドライブレコーダー一式をはじめ、録画動画を再生するための再生プログラム、「安全運転カフェドライブレコーダー取り付けマニュアル」、安全運転カフェの運営方法をまとめた「安全運転カフェ実施マニュアル」などの自主開催に必要なもの一式を無償で提供いたしました。
また、自主開催にあたっては担当者が慣れるまで当方からフォロー役を派遣しました。
譲渡セット
①4カメラ付きドライブレコーダー一式(含む交換用128GBSDカード)
②安全運転カフェドライブレコーダー取り付けマニュアル
③安全運転カフェ実施マニュアル
④専用動画再生プログラム
⑤安全運転カフェ「チェックポイント一覧」
⑥安全運転カフェ「くせ一覧表」
⑦安全運転カフェ「自己評価シート」
⑧デモ映像動画データ
⑨上記②~⑧を収録したデータDVD
譲渡先(自主開催先)
●企業・法人…6件
●地域組織・一般家庭…2件
日本交通心理士会地区研究会発表
2021年7月に京都で開催された日本交通心理士会第11回中部・近畿地区研究会において、「ドラレコを用いた『自発的気づき』による安全運転態度の意識化」と題して、2019年度と2020年度に行った当事業の研究発表を行いました。
参加者からは「独自性の高い取り組みで興味深い」といった内容の評価をいただきました。
また、質疑応答では安全運転カフェに関する発送や手順、方法に関する質問のほか、下記のような貴重なご意見やアドバイスもいただきました。
参加者からのご意見やアドバイス
○条件(独立変数)が多くなりすぎで行動変容の原因特定が困難。
○自己評価での評価項目(チェック項目)の裏付けを明確にすべき。
○運転のくせに対する他者からの指摘がある場合とない場合とで行動変容に差はでるか。
○実施前後の行動変容を映像解析によって数値化してみては。
○運転姿勢と安全運転意識の間にも関係性があるのではないか。
○自己評価は前回までの評価を示して今回評価をしてもらっているがバイアスがかかるのではないか。前回までの評価は隠していいのではないか。
○2回目の映像も1回目と同じ場面(走行場面)で比較したほうが分かりやすくないか。
○自己評価を主たる効果検証指標としているが、実際の行動変容を第三者が観察してはどうか。